1.完全無施肥


りんご樹木のまわりの大豆

「自分ならこうやって育てる」と考えていたことの第一が、完全無施肥です。

作物の生命力を上げ、園地内生態系を整えるには、無施肥がスタート。
それも、より自然に近い堆肥さえ入れない「完全」無施肥で。

他方、植物にとって重要な窒素を確保するために、樹の周りで大豆を育てたり、園地内にクローバーの種を播いています。

これら豆科植物は、空中窒素を植物が吸収しやすい硝酸塩に固定してくれる「根粒菌」が根に共生する特徴があるからです。

生命力と無施肥

無施肥だからこそ、樹は自ら根を張り、懸命に養分水分を吸収しようとします。

樹自身の「生きようとする力」が高まります。

十数回の断食経験からの着想です。

植物も人間も、ちょっと足りないくらいの時に細胞も遺伝子もスイッチがONになるようです。

余談ですが、白血球内マクロファージの働きは少食時に活発になって免疫力が高まります。

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生態系と無施肥

施肥による余剰養分に虫が湧き病気(多くは菌体)が発生するため、園地内生態系が崩れます。

堆肥の質や量、施肥のタイミングを研究するのも手ですが、所詮人間(ましてや自分)がやれることは高が知れている。

自然の生態系を整えるには、単純に「足さない」で自然に任せるのが確実で効果的、と考えます。

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味と無施肥

化学・有機を問わず肥料で味を付けないことにより、
「りんご本来の風味」、「その土地固有の風味」が出てきます。

肥料で太らせないで、ゆっくり・じっくり成長するので果肉が締ります。
 

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日保ち、切り口褐色化と無施肥


収穫間近のりんご

肥料成分は、枝(茎)、葉、果実等の内部に留まっています。

堆肥も動物由来のもの程、未熟である程、植物内で腐ったり変色したりする原因となるようです。

当園のりんごは、通常のものに比べて傷み難く日保ちが長いようです。
切り口も褐変しにくいです。

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収穫量と無施肥

肥料で樹を頑張らせるわけでないので、収穫量は慣行栽培に比べると減らさざるを得ません。

というよりも、肥料で無理に頑張らせないで、本来その樹に適った量を収穫させていただく、と考えています。

具体的には、樹の様子を観て調整しています(樹齢、葉の様子、腐乱病等病気の有無、等)。

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2.草を刈らない(草生栽培)

これは、完全無施肥とセットです。
1年に一回、8月末〜9月末(収穫時期により違いあり)に刈るだけです。

養分と草生栽培


農園の下草(1)
農園の下草(2)

下草が土を肥沃にしてくれます。

季節毎に草は生え変わります。

陽当たり等の条件や土壌環境によっても、生える草の種類が異なります。

園地内で場所によって生えている草が違うのはもちろん、昨年種が落ちたはずの同じ場所に、土が変わって違う草が生えることがあります。

そこに生育し易い=その土に「必要」な草が生えます。
例えば、クローバーは窒素分の足りないところに良く生え、足りてくると減ります。

上記「根粒菌」も然り。
窒素が足りてくると、大豆の根に共生する根粒菌が減ります。

根は短期間で新陳代謝して古い表皮が剥がれ、微生物に分解されます。

季節毎、年毎の様々な草の茎葉や根表皮が、微生物によって様々な有機物やビタミンミネラルに分解されます。

この「多様性」が大きなポイントです。
因に、頻繁にしかも深く刈っている園地を観ると、生えている草の種類が少ないです。

草を刈らないからこそ、自然のサイクルのなかで多種多様で必要充分なものがつくられ、完全無施肥でも作物が元気においしく育つのです。


イヌタデ

オオバコ

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その他の効果

  • 土の保温、保湿を高める。土壌浸食を防ぐ。
     記録的な少雨・干ばつでも、草につく朝露による水分補給はバカになりません。
  • 草が根を張ることにより土が柔らかくなります。
     因に、当園は土が柔らかいため鼠が多いです(殺鼠剤を使用しないせいもありますが)。
  • 虫や小動物の住処となるので、園地生態系が豊かになり、かつ虫が枝葉や果実に行かなくなります。

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3.低農薬

数多くある果樹の中で、りんごは特に病害虫に弱いものです。病気に弱いバラ科である(梅、梨、桃など他にもバラ科は多い)ことに加えて、古くから品種改良を繰り返しているためと言われています。

2010年の就農以来、極力農薬散布を少なくして栽培しています(一部園地では苗木から無農薬)。

ただ、低農薬・無農薬が目的ではありません。生命力溢れるりんご、生態系の整った園地の「一結果」と考えています。

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「減農薬」の定義・基準


農薬の散布

有機JASや、国がガイドラインを決めて各都道府県が認証する「特定栽培農産物」等、いくつかあります。

「特定栽培農産物」の場合、節減対象農薬の使用回数が慣行栽培の5割以下(この他に化学肥料の窒素成分が5割以下)という基準があります。慣行栽培値は各都道府県毎に定められています。

青森県のりんごの場合、36成分回数ですから、18成分回数以下が認証基準となります。


井戸水の汲み上げ
※節減対象農薬:
従来の「科学合成農薬」から「有機農産物のJAS規格で使用可能な農薬」を除外したもの。

例えば当園でも使用している「ハーベストオイル」「ファイブスター顆粒水和剤」等は後者にあたり、使用農薬としてカウントしなくても良いことになります。

 
※※成分回数:
年間で同じ薬剤を複数回散布する場合や、1回の散布で例えば複数種類の薬剤を混ぜて散布する場合に、成分毎に「1回」とカウントした回数です。
例えば1回の散布で3成分散布した場合、「3成分回数」となります。
参考リンク:
農林水産省(特別栽培農産物):
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/tokusai_a.html
農林水産省(有機農産物):
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/yuki_nosan_120328.pdf

 
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当園の取り組み


自分自身の防護

上記のような認証制度には申請していませんが、
下記にあるように農薬使用量は各種認証基準以下です。

「自分自身が、もいだその場で皮ごと丸かじりできるりんご」が最低基準です。

散布作業は、井戸から500リットルタンクに水を汲み上げ、80mのホースの先に付けた竿を持って、園地内を歩き回って散布します。

ゴアテックス製の合羽、帽子、ゴーグル、マスク、ゴム手袋、長靴で、自分自身を防護しています。

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薬剤使用状況

一口に農薬と言っても、殺菌剤殺虫剤の他に、摘花摘果剤や着色促進剤、落果防止剤といった植物ホルモンに関連する植物生育調整剤、除草剤、土壌消毒剤と多岐にわたります。

  • 摘花摘果剤、着色促進剤、落果防止剤(以上植物生育調整剤)、除草剤、土壌消毒剤:不使用
    前3種は植物ホルモンを弄る故に、後2種は土中微生物まで殺してしまう故に、これらの薬剤使用は論外、一切使用していません。
     
  • 塗布剤(切り口からの病原菌侵入防止、腐乱病患部の拡大防止と治癒、等):不使用
    昔から行なわれている「泥巻き」(園地内の土でつくった泥を塗る)や自家製薬剤(人間が口にするもの、口に入れても無害なものを使用)で対処しています。
  •   
  • 殺菌剤殺虫剤

    スピードスプレイヤーでの散布
    年によって異なりますが、「年間薬剤散布量」は慣行比7〜9割減となっています。

    上記「成分回数」を減らすのはもちろん、薬剤「濃度」を低くしています。

    さらに、竿で手散布することにより、樹以外に「地面」に吸収される薬剤量を少なくしています。

    (通常の散布車〈通称SS〉での散布では、薬剤を噴き上げるため地面への落下吸収量も多くなります)

     
    「量」の他に留意していること   
    • 毒性の高いものを避ける
      人への神経毒性が高い有機リン系の薬剤の使用を極力控える
      世界規模でのミツバチ激減の一因とされるネオニコチノイド系薬剤を使用しない
      人畜へ急性毒性や魚毒性の低いものを選ぶ(参考「農薬の毒性分類基準」)
       
    • 最終散布時期
      収穫から逆算して最終散布をなるべく早めに終えたいと考え、
      7月末〜8月上旬を最後にしています(2011〜13年、2010年は8月末)。
      ただ、青森でも9月の気温が高くなっているため、虫がもう一回産卵ふ化するようになっています。
      特にモモシンクイガ(通称ハリトーシ)の被害が増えていて、対処法を検討中です。

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農薬散布を減らすために

少ない薬でも防除効果が上げられるように、

  1. 病害虫の発生し難いように園地内環境を整備する
     例)腐乱病感染源となりやすい剪去枝を速やかに除去する
       病害虫の温床となる余分な枝やひこばえを随時除去する
  2. 効果の高い適期に散布する
     (その為に園地内の観察を徹底し、降雨・気温・湿度等に気を配る)
  3. 散布技術を上げる
を心掛けています。

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4.その他の特徴

(1)剪定


鋏(はさみ)

基本は同じでも、栽培法で剪定も多少変わってきます。
低農薬でも病虫害を減らす為に、

  • 通常以上に陽当たりと風通しを良くする→枝を整理
  • 完全無施肥でも美味しい実となるために、葉を多くする→枝は多く

という反する方向の間でバランスをとりながら整枝しています。
 
 


鋸(のこ)

そして何よりも、樹の生命力を高めることが土台ですから、

  • 樹本来の性質
    (陽を求めて上に伸びる等)
  • りんごという果樹の性質、品種毎の特性
  • 「その」木の状態
    (樹齢、腐乱病等病気の有無、昨年の状況等)

を勘案しながら、剪定するよう心がけています。

判ったようなことを書いてますが、10年やって1人前と言われます。
勉強→観察→やってみる→結果を観察→またやってみるの繰り返しです。


剪定前

剪定後

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(2)重機で園地内を極力走らない


スピードスプレイヤー(通称SS)

完全無施肥では「樹自らが根を張り養分を吸収する」ことが重要です。

樹が充分に根を張れるために、第一に土が柔らかいことが必要です。
土が硬くなるのを防ぐために、極力重機で走らないようにしています。

薬剤散布では、通常スピードスプレイヤー(通称SS)という1トンの液体を積める車で散布しますが、当園では、噴霧器に80mのホースを着けて、竿で手散布しています。


収穫・運搬車

重いもので園地を走るのは、運搬車(私一人で押して動く程度の重さ)で、収穫量の多いジョナゴールドとふじの収穫期(10月下旬〜11月中旬)のみです。

この時だけは、200キロ前後のりんごを積んで走ります。

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(3)樹の間隔を空ける

地上で枝同士が接触する程に間隔が狭いと、陽当たりや風通しが悪くなって、病虫害が発生しやすくなります。

そういう場合、目に見えない地中でも根が喧嘩することになるので、樹勢や味に悪影響を及ぼします。

完全無施肥なだけに、樹が隣接してると養分が行き渡らないことにもなります。

そのため、通常よりも樹の間隔を空けるように心がけています。
いきなり主枝を切り落としたり(樹が弱ってしまいます)樹を伐採することはできませんが、少しずつ整備しています。

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(4)摘花・摘果(着果量)

無肥料故に慣行栽培に比べて結実量は少なくしています(3分の2くらい)。
具体的な量は、樹ごとに前年の状況(球数、大きさ)を参考に、その年の元気さも観察して調整しています。

もちろん全て手作業。摘果剤は一切使ったことがありません。

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(5)反射シート


反射シート

果実のお尻の方まで陽が当たって着色がよくなるようにと、反射シートを樹の下に敷く方が多いです。

当園は、初年度に10本程やってみましたが、それ以降は全くやっていません。

当園は日照時間が長く元々着色が良いので、必要なかったのと、何よりも、土にはむしろ有害だと感じたからです。


当園(反射シートなし)

初年度の春、前の持ち主が前年に反射シートを敷いた部分で下草の生えるのが遅く弱いのに気付き、他の園地を観るとやはり同様でした。

秋口から地面をシートで覆うので、光が当らずに蒸れて、其処に居る微生物も元気がなくなるのでしょう。

下草を大切にする当園では、これは致命的なので、やらないことにしました。

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(6)葉摘み

一般には、秋になると果面への陽当たりを良くして着色を良くする為に周りの葉を摘みます。

完全無施肥では、光合成でデンプンを生成する葉は慣行栽培以上に大切ですから、基本的には果実にくっついている葉や弦元の葉を取り除く程度に留めています。


葉摘み前

葉摘み後

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(7)無袋栽培(通常「サン○○」と表記されます。例:サンふじ)


有袋栽培

当園ではこれまで無袋栽培のみです。

袋をかける目的は、

  1. 病虫から実を守る
  2. きれいに着色する
    (タイミング良く剥ぐときれいに着色します)

の2点です。
 


当園8月(無体栽培)

味は、結実以降、陽に当たっている無袋栽培の方が美味しいようです。

低量とはいえ農薬を散布しているので、病虫害防除効果や着色の鮮やかさよりも食味向上を重視して無袋栽培としています(正直、袋掛けまで手が回らない事情もあります)。

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